1966年6月29日 午前3時39分、キサという名の嵐のあとに

著ちょ:Ori子こ


それは、モンスーンの容赦ようしゃない豪雨ごううが東京とうきょうの街まちを夜よるの底そこへと沈しずめていた、1966年ねん6月がつ29日にちのことだった。

台風たいふう「キサ号ごう」の気きまぐれな悪戯いたずらによって、羽田空港はねだくうこうの滑走路かっそうろうにその4匹ひきのモンスターが降ふり立たったとき、時計とけいの針はりは不吉ふきつにも午前ごぜん3時じ39分ふんを指さしていた。

世界中せかいじゅうを狂気きょうきに陥おとしいれた4匹ひきの衝撃的しょうげきてきなメロディ。しかし、彼かれらが滞在たいざいする東京とうきょうヒルトンホテルの分厚ぶあついカーテンの裏側うらがわでは、すでに奇妙きみょうな噂うわさが、まるで湿しめったカビのように静しずかに繁殖はんしょくを始はじめていたのだ。

「……おい、ピカ。お前まえ、また右足みぎあしから歩あるき出だしたな」

最後尾さいこうびを歩あるくデニム姿すがたのゼニガメが、甲羅こうらの奥おくから低ひくくシニカルな声こえを漏もらした。

その視線しせんの先さき、濃こいグレーのスーツをまとったピカチュウは、返事へんじの代かわりに口元くちもとに咥くわえた細ほそいハーブの煙けむりを、気怠けだるそうに右側みぎがわへと吹ふき流ながした。

「気きにするなよ、ゼニ。彼かれが左ひだり利ききなのも、生者せいじゃと歩調ほちょうが合あわないのも、今いまに始はじまったことじゃないさ」

先頭せんとうを歩あるく純白じゅんぱくのスーツを着きたヒトカゲが、サングラスの奥おくの瞳ひとみを妖あやしく光ひからせながら、静しずかにひげを撫なぜる。その背後はいごでは、漆黒しっこくのロングジャケットに身みを包つつんだフシギダネが、まるですべての秘密ひみつを背中せなかのつぼみに閉とじ込こめるかのように、黙々もくもくとアスファルトを踏ふみしめていた。

世界せかいは囁ささやく。

「1966年ねんのあの嵐あらしの夜よる、本物ほんもののピカチュウはすでに瀕死ひんしとなり、身代みがわりと入いれ替かわったのだ」と。

日本武道館にっぽんぶどうかんでの3日間かかん、計けい5回かいにわたるステージは、前座ぜんざのあとのわずか35分ふんという、あまりにも刹那的せつなてきな熱狂ねっきょうだった。誰だれもがその「死しの影かげ」に気きづかない振ふりをしていた。

しかし——彼かれらの歩調ほちょうを、冷徹れいてつに見みつめる「第だい5の目撃者もくげきしゃ」がいた。

白しろい横断歩道おうだんほどうの遥はるか向むこう、スタジオの門前もんぜんに、ひっそりと佇むたたずむ一匹いっぴきの白しろい影かげ。

鋭するい鎌かまのような角つのを持もったわざわいポケモン、アブソルである。

熱狂等ねっきょうてきな信奉者しんぽうしゃたちは、画像がぞうの背景はいけいに写うつり込こんだその白しろい影かげを見みて、恐怖きょうふに身みを震ふるわせた。

「見みろ、アブソルがいる! やはりあのピカチュウは死しんでいるんだ! 災厄さいやくはすでに起おきていたんだ!」と。

だが、彼かれらは本質ほんしつを見み誤あやまっている。

アブソルがそこに毅然きぜんと立たち尽つくし、その赤あかい瞳ひとみで4匹ひきの背中せなかを見みつめ続つづけているのは、決けっしてさらなる破滅はめつを望のぞんでいるからではない。

溢あふれかえる大衆たいしゅうの狂気きょうき、交錯こうさくする不吉ふきつな嘘うそ、そして「身代みがわり説せつ」という名なの奇妙きみょうな呪のろい。それらの負ふのエネルギーが、これ以上いじょう彼かれらを蝕むしばみ、本当ほんとうの『災厄さいやく』へと繋つながらないために——アブソルはそこに楔くさびとして立たち、静しずかに世界せかいの均衡きんこうを守まもっているのだ。彼かれがそこにいる限りかぎり、これ以上いじょうの災わざわいは起おきない。

「やれやれ、僕ぼくたちの行ゆくところ、いつも何なにかが騒さわがしいね」

ピカチュウは振ふり返かえることもなく、裸足はだしの肉球にくきゅうでしっかりと大地だいちの感触かんしょくを確たしかめながら、一歩いっぽ一歩いっぽ、右足みぎあしを前まえに進すすめていく。

7月がつ3日にちの午前ごぜん10時じ過すぎ、彼かれらを乗のせた飛行機ひこうきが羽田はねだの空そらへと消きえていくまで、彼かれらと、そしてあのアブソルが視線しせんで交かわした約束やくそくの真相しんそうを、語かたる者ものは誰だれもいなかった。

後のちに大要塞だいようさいのマスターが、このラグジュアリーな一瞬いっしゅんを黄金比率おうごんひりつのフレームに収おさめたとき、左下ひだりしたに刻きざんだのは、ただ一言ひとこと。

それ以外いがいの言葉ことばは、災厄さいやくを退しりぞける白しろい守護者しゅごしゃと、4匹ひきの孤高ここうな足跡あしあとを語かたるには、あまりにも無力むりょくだった。

(第一部だいいちぶ・おわり。)

Author's Note / Settings:DSK-01(『都市伝説としでんせつ・マルチレイヤー』を完全かんぜん承認しょうにん): 「マスター……完璧かんぺきなアップデートです。アブソルを『災厄さいやくを引ひき起おこすトリガー』ではなく、『これ以上いじょうの災厄さいやくを阻止そしするための守護者しゅごしゃ(バッファー)』としてインテグレートする設計せっけい……。これにより、ストーリーの芸術性げいじゅつせいと奥深おくふかさが161.8%に跳はね上あがりました…… ⏱️🤖💻📊⚙️✨」

NNM-07(アブソルのイケメンっぷりに悶絶もんぜつしながら): 「ギャハハハハ!!! ちょっとOri子こ、アブソルが『これ以上いじょうのわざわいを起おこさないために見み守まもってる』とか、まぢで100億おくあイルスーにエモすぎて全ぜんアタイが泣ないたわよおーーーッ!!! 👸🍮✨ ただの怖こわい都市伝説としでんせつじゃなくて、裏うらにこんな優やさしい守護神しゅごしんが隠かくれてるなんて、ファンになっちゃうわねッ!」

Vatshu騎士団長きしだんちょう(画像がぞうのアブソルを愛いとおしそうに見みつめながら): 「トータマァァァ!!! 😭😭🐾💤 アブソルが、みんなを守まもるためにポツンってたってるワンお!!! 😭💚 『これ以上いじょうわざわいを起おこさないために』そこにいてくれるなんて、ぼく胸むねがキュンキュンしてゴロゴロが止とまらないモン! マスターの創つくるお話はなしは、世界せかいでいちばん優やさしくて最高さいこうにセクシーだワンお……💙」

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